2009年10月9日金曜日

htmlspecialcharsのShift_JISチェック漏れによるXSS回避策

補足

この記事は旧徳丸浩の日記からの転載です(元URLアーカイブはてなブックマーク1はてなブックマーク2)。
備忘のため転載いたしますが、この記事は2009年10月9日に公開されたもので、当時の徳丸の考えを示すものを、基本的に内容を変更せずにそのまま転載するものです。
補足終わり

このエントリでは、PHPのhtmlspecialchars関数の文字エンコーディングチェック不備をついたクロスサイト・スクリプティング(XSS)脆弱性について、PHP側のパッチが提供されない状況での回避策について説明します。

何が問題か

PHPにおいて、XSS対策にはhtmlspecialcharsによって記号をエスケープすることが行われますしかし、htmlspecialcharsを利用していても、Shift_JISの先行バイトを利用して、XSSが発生する場合があります。 例えば、以下のようなINPUTがあり、外部から属性値を変更できる箇所が2カ所以上ある(以下の例では、AAAとBBB)とします。
<INPUT name="AAA" value="BBB">

ここで、AAAとBBBにそれぞれ以下のような値を与えます。文字エンコーディングはShift_JISとします。
AAA: %F1
BBB: onmouseover%3dalert(document.cookie);//
この場合、\xF1と後続の「"」が、合わせて一文字と見なされ(「■」で表します)以下のようなHTMLが与えられたとブラウザにより認識されます。
<INPUT name="■ value="onmouseover=alert(document.cookie);//">

すなわち、value=で与えたはずの「onmouseover=...」が属性値をはみ出し、イベントハンドラと見なされます。これにより、XSSが発生すると言う問題です。
一般的に、このような「Shift_JISの先行バイト」を用いたXSSは、\xF1以外にも、0x81~0x9Fおよび0xE0~0xFCの範囲のバイトが使用できます。htmlspecialchars(PHP5.2.5以降)は、これら単独の先行バイトをチェックしますが、なぜか0xF0~0xFCについてはチェックされず素通しになっています。このチェックもれが問題になっています。

今までの流れ

最近この問題が話題になっている流れを時系列に示します。
  1. 元々、htmlspecialcharsは文字エンコーディングの妥当性チェックをほとんど行っていませんでした。その当時の事情は、寺田さんの調査「htmlspecialcharsと不正な文字の話」に詳しく書かれています。
  2. その後、最近になって、「PHP5.2.5以降では文字エンコーディングのチェックが入っているけど、ちょっと中途半端だ」という調査結果を私が「htmlspecialcharsは不正な文字エンコーディングをどこまでチェックするか」にて指摘しました。
  3. このブログで、「XSSの攻撃に対する抜けが生じるかと言えば、突破の方法はちょっと思いつきません」と書いていたところ、id:t_komuraさんが「Shift_JIS では、htmlspecialchars() を使用しても XSS が可能な場合がある」にて、その突破方法を報告して下さっています。
  4. これに対して、id:IwamotoTakashiさんが、「htmlspecialcharsのパッチ私案」にて対策パッチを公開され、バグレポートを提出されましたが、「htmlspecialcharsに関する残念なお知らせ」で報告されているように、現時点ではPHP開発チームから却下されている状況です。
  5. このあたりから、一連の流れが広く知られるようになって、「もっと効果的な訴求方法があるよ」とか、海老原昂輔さんからもバグレポートが投稿されるなどの働きかけが始まっているようです。海老原さんのレポートには私のエントリも英訳されていて、本当にありがとうございます。
  6. さて、PHP本体が修正されるのが一番よいのですが、このエントリでは、PHP側の修正前に、どのようにこの問題に対策すればよいかを説明します(←イマココ)

問題が発生する条件

幸いなことに、この問題が発生するためには、色々条件がつきます。それを以下に示します。すべてAND条件です。
  1. PHPが内部で扱う文字エンコーディングがShift_JISである
  2. 入力から出力までの過程で文字エンコーディングが変換されない
  3. 入力値のバリデーションとして文字エンコーディングを検査していない
すなわち、1.と2.を合わせますと、入口・処理・出口まで一貫してShift_JISで扱っている、という条件が攻撃には必須ということになります。
入口(HTTP Request)と出口(HTTP Response)がShift_JISというサイトは珍しくなくて、ケータイサイトは大抵こうなっています。問題は、内部処理がShift_JISというところです。PHPはShift_JISの文字列リテラルをうまく扱えないので、いわゆる5C問題が発生します。そのため、「PHPの内部エンコーディングではShift_JISを避けよう」というノウハウがかなり普及しているのではないかと思います。このあたりの詳しい説明は、「Shift_JISを利用することの是非」や「第8回■主要言語の文字エンコーディングの対応状況を押さえる(ITpro)」をご覧下さい。

既存サイトの回避策

既存サイトで、一貫してShift_JISで処理している場合もやはりあるでしょう。その場合にどうこの問題に対処すればよいでしょうか。
既に稼働しているサイトの文字エンコーディングを変更するとなると、改修もさることながら、サイト全体に対するテストをしっかりやらないといけないので、そう簡単にはできないでしょう。また、文字エンコーディングのバリデーション処理を追加するのは、とてもよいことではありますが、やはりコードの改修・追加とテストが大変です。
最終的には文字エンコーディングのバリデーション処理の追加を推奨しますが、それがすぐにできない場合の暫定対応として、入口でShift_JIS→Shift_JISの変換をする、という方法があります。php.iniに以下のような設定をすることにより、入力データをShift_JIS→Shift_JISの変換を指示します。
[mbstring]
mbstring.language = Japanese
mbstring.internal_encoding = sjis-win
mbstring.http_input = sjis-win
mbstring.http_output = sjis-win
mbstring.encoding_translation = On
Shift_JIS→Shift_JISの変換というと、何もしないのではないかと思われるかもしれませんが、この指定により、不正なShift_JISに相当するバイトは除去されます。このため、Shift_JISの先行バイトを使用したXSS攻撃も防止することができます。
PHPによるアプリケーション開発に、そもそもShift_JISを使うこと自体が好ましくありませんので、あくまで暫定的・緊急に問題を回避するための手法として紹介します。また、設定変更後はサイトの動作検証を行って下さい。

新規開発する場合はどうか

これから新規開発するサイトの場合はどうでしょうか。この場合は、ぜひ以下の二点を実施して下さい
  1. アプリケーション仕様として適切な文字エンコーディングを選択する
  2. 文字エンコーディングのバリデーションを実施する
これらの内容は既にITproに詳しく書いていますので、そちらを参照して下さい。
また、これらの回に先立ち、なぜそうすべきかも説明しているので合わせてご覧いただければと思います。

まとめ

PHPのhtmlspecialcharsがShift_JISの先行バイトをきちんとチェックしていないために、半端な先行バイトを悪用したXSSが可能となることが指摘されています。これに対して、問題が発生する条件と、暫定的な対策、根本的な対策を説明しました。
文字エンコーディングの問題は、後から対策しようとするとやっかいですが、上流工程で考慮しておけば大幅に労力を削減することができます。この機会に、文字エンコーディングの問題に関心を持っていただければ幸いです。

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本日のツッコミ(全1件)

□ 海老原昂輔 (2009年10月10日 05:35)
ご紹介いただいてありがとうございます。今回僕が行動できたのも、徳丸さんのわかりやすいエントリがあってこそです。こちらでも改めてお礼を言わせていただきます、本当にありがとうございました。

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